大阪高裁判決 (2004年7月)控訴棄却

平成16年7月21日宣告 裁判所書記官 星野充広
平成16年{う}第577号 大麻取締法違反幇助被告事件

 

         判    決

 

被告人
 氏名 前田耕一

 

検察官  高野芳雄
弁護人  森川真好(私選)
一審判決  大阪地方裁判所 平成16年3月17日宣告

 

         主    文

 

本件控訴を棄却する。

 

        理    由

 

第1 弁護人の控訴理由

 

 1 訴訟手続の法令違反
  (1) 大麻取締法の違憲性
  大麻には大麻取締法立法当初に予見されたほどの有害性がなく,法律の合憲性を支える事実を失っており,殊に大麻を医療目的で使用する場合は,有用性が有害性を大きく超えるものであり,同法を医療目的使用の場合にまで適用するのは違憲であると判断するべきであるから,この点を見過ごして判決をした一審判決は理由不備又は理由齟齬があり,違法である。

 

  (2) 正当行為
  被告人の本件行為は医療目的によるもので正当行為であるところ,一審判決がその判断において,中島らもこと中島裕之が本件直前に医師による診断を受けていないことを理由に本件行為の正当性を欠くとするところは,中島が本件以前に2回医師による診断を受けており,中島の緑内障が自然治癒することがないままの状態であって,大麻による緑内障の治療を必要とする状態であったのであるから,この点を見過ごして判決をした一審判決は理由不備又は理由齟齬があり,違法である。

 

 2 量刑不当
   一審判決は,被告人を懲役8か月,執行猶予3年間に処しているが,懲役8  か月は重すぎて不当である。

 

第2 控訴理由に対する判断

 

 1 訴訟手続の法令違反について
 (1) 大麻取締法の違憲性
   この点について,一審判決が,被告人及び弁護人の主張に対する判断の項  において説示するところは,正当であって是認されるものである。すなわち,一審判決は,医療目的による大麻の使用については許容されるべきであり,その意味で大麻の取扱いを規制する同性の合憲性を支える事実は既になくなっている旨の被告人及び弁護人の主張に対して,一般的に,同法の合憲性は累次の判例により明らかであるとした上で,医療目的による使用については,大麻の有害性を前提としてそのような研究が外国で始まっているにすぎないのであり,医療行為による大麻の使用を認めるかどうかは,大麻の有害性等をも考慮した上での立法裁量に委ねられているとして,同法が違憲無効である旨の主張を排斥しているところ,この説示は正当である上,判決の理由として不備なところも齟齬するところも認められない。
   したがって,弁護人のこの点についての主張は理由がない。

 

 (2) 正当行為
  この点についても,一審判決が,被告人及び弁護入の主張に対する判断の項において説示するところは,正当であって是認されるものである。すなわち,一審判決は,医療目的による大麻の使用がいまだ研究段階にあり,仮に人体への使用が正当化される場合があるとしても,それは大麻が法禁物であって一般的な医薬品としては認められないという前提で,なおその使用を正当化するような特別な事情があるときに眠られると説示した上で,本件においては,被告人の仲介等により中島が大麻を譲り受けた前後に中島の病状について医師の診断がなされていないことから,中島において大麻を使用する医学的な必要性や相当性を裏付ける事情はなく,また,中島に対して医学的な配慮の下に大麻が使用された形跡もないとして,中島の大麻譲受けが正当化され,あるいはその処罰が適用違憲となる事情はないと説示しており,いずれも正当な判断であって是認されるものである。更に指摘すると,証拠によれば,被告人自身も,中島から,眼圧が高く緑内障の疑いがある、緑内障に卓効がある乾燥植物が欲しい旨暗に大麻の入手を依頼するフアックスを受けたところ,同人に対し,緑内障の具合はどうですか,視野狭窄ほあるのですか,眼圧はどうですか,病院で見てもらっているのですか,大麻は確かに効きますが完全に治るわけではないなどと尋ねたり,告げたりするにとどまっていること,本件譲受けの後,被告人が,中島の病状や大麻使用による薬効の有無を検証するなどして関与した形跡もなく,むしろ,後で言い訳ができなくなるため,本件譲受けの現場を見てしまったことを後悔していることが認められる。これらの本件幇助の前後の経緯を見ると,被告入は,素人判断としての事前の病状の聞き取り等はともかく,医療目的で大麻を使用するというのならば当然伴わなければならない医学的に正確な中島の病状の把握や大麻使用による薬効及び副作用の有無の医学的な検証等について意を払っていないのである。そのような被告人の言動及び態度に照らすと,被告人は,本件幇助に及ぶに当たって,緑内障の治療のためには大麻よりも病院による診断及び治療を優先させるべきであると考えていたのであり,大麻の使用が治療のために不可欠に必要であるとまでは考えておらず,医療目的で本件幇助行為を行った面があったことが認められないではないが,むしろ,被告人が麻薬取締宮に対して供述するとおり,主として,著名な作家であり,大麻解放運動者でもある中島が大麻を欲しがっているのであれば,同人に大麻の譲渡人を紹介することで,被告人や本件譲渡人が行っている大麻合法化の運動に同人が協力してくれるものと考えて本件幇助行為に及んだと見るべきであり,専ら医療目的で本件犯行に及んだ旨の弁解は自己の行為を合理化ないし正当化するためになされたものであると認められる。そうすると,その余の点を判断するまでもなく,本件譲受けそのもののみならず,被告人の幇助行為についても正当行為となる余地がなければ,本件幇助行為に同法を適用することをもって違憲であるとする余地もないものといわなければならない。
 いずれにせよ,この点について,一審判決に判決の理由として不備なところも齟齬するところもないと認められる。
 したがって,弁護人のこの点の主張は理由がない。

 

2.量刑不当について
   弁護人は,被告人が医療目的で本件犯行に及んだのであるから,その動機において道徳的にやむを得ない事情があるとともに,正犯者である中島の主刑が懲役10か月(執行猶予付き)であるのに従犯である被告人の主刑が執行猶予付きでありながら懲役8か月は重すぎると主張するが,上記のとおり,被告人の本件幇助の動機が真剣な医療目的から出たものではなく,医療目的での大麻使用を合法化すべきであるという自己の運動のために中島に大麻の譲渡人を紹介するなどしたものと認められるのであり,一審判決が指摘するようにその動機に酌むべきところはなく,そのほか,本件大麻が多量であり,正犯の犯行が成立する上で被告人の役割は不可欠であったことといった一審判決が掲げる量刑事情は正当であり,これらを考慮すると,被告人の刑事責任は重いのであって,被告人がその意図はともかくとして客観的事実自体を認めていること,前科がないことなどの一審判決が指摘する被告人のために酌むべき事情や共犯者の刑との均衡などを総合しても,被告人を懲役8か月,3年間執行猶予に処した一審判決の量刑が重すぎて不当であるとはいえない。
   したがって,弁護人の量刑不当の主張は理由がない。

 

第3 適用法令
   刑事訴訟法396条

 

 平成16年7月21日
   大阪高等裁判所第2刑事部
裁判長裁判官      島       敏   男
裁判官         江   藤   正   也
裁判官         伊   藤       寿
これは謄本である。
  同日同庁
      裁判所書記官 星野充広

 


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