判決 (2004年3月17日)

判決(平成16年3月17日宣告)

 

平成16年3月17日宣告 裁判所書記官 下村義之
平成15年(わ)第7113号 大麻取締法違反幇助被告事件

 

            判     決

 

被告人
氏名  前 田 耕 一
年齢  昭和25年5月6日生
 本籍 大阪府 
 住居 東京都世田谷区北沢 
 職業 会社役員
検察官 中本次昭
弁護人 森川真好

 

            主     文

 

     被告人を懲役8月に処する。
     この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

 

            理     由

 

(犯罪事実)
被告人は,中島らもこと中島裕之が,平成15年1月5日ころ,大阪市北区内の飲食店において,みだりに,Kから大麻約30グラムを代金10万円で譲り受けるに際し,その情を知りながら,同日,同所付近において,上記中島に上記Kを紹介して両名を引き合わせ,さらに,上記中島のために上記大麻代金を立替払するなどし,もって,同人の上記犯行を容易にさせてこれを幇助した。
(証拠)
 括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
 被告人の公判供述,検察官調書(乙8, 9),麻薬取締官調書(乙3, 4, 6) 証人中島らもこと中島裕之,同K直文の公判供述 中島らもこと中島裕之(甲1),K直文(甲2)の検察官調書謄本 写真撮影報告書謄本(甲6)  差押調書謄本(甲3),  鑑定嘱託書謄本(甲4),鑑定書謄本(甲5)

 

(法令の適用)
罰条       刑法62条1項,大麻取締法24条の2第1項
法律上の減軽   刑法63条, 68条3号(従犯)
刑の執行猶予   刑法25条1項
(被告人及び弁護人の主張に対する判断) 
1 被告人及び弁護人は,外形的事実については争わないものの,被告人は無罪であると主張する。すなわち,大麻には医薬品として著名な薬効が認められ,本件では,中島裕之(以下「中島」という。)の緑内障を治療するため,被告人の仲介により,K(以下Kという。)が中島に大麻を譲渡したものであるところ,第1に,大麻取締法24条の2第1項は,その前提とする同法3条1項と併せて,医療のための例外を設けない点で,違憲無効(法令違憲)であり,第2に,本件においては,大麻取締法24条の2第1項を被告人らに適用すべきではなく,被告人らに適用される限りで違憲無効であり,第3に,医療のために大麻を使用させようとして大麻の授受を幇助した被告人の行為は刑法35条の正当行為に当たるというのである。

 

2 関係証拠によれば,本件の経緯は次のとおりである。
被告人は,以前から,医療目的での大麻使用を合法化すべきであるとの考えを持ち,東京及び大阪で麻製品,麻食品,吸煙具等を販売する店を経営するなどしていた者,中島は,医療目的に限らず大麻の使用を合法化すべきであるとの考えを持ち,作家としてその考えを自己の著作にも表明してきた者,Kは,医療目的に限らず大麻の使用を合法化すべきであるとの考えを持ち,自ら大麻を栽培していた者である。被告人と中島,被告人とKは,それぞれ本件以前から面識があったが,中島とKは,本件以前には面識がなかった。
  平成14年12月中旬ころ,中島は,被告人に対し,「眼圧が高く,緑内障の疑いがある。緑内障に卓効のある乾燥植物が欲しい。」などと記載した紙をファクシミリで送信し,暗に大麻の入手を依頼した。これを受けた被告人は,中島と電話で連絡を取る一方,Kとも連絡を取り,平成15年1月5日に大阪市内において三者で会い,Kが中島に大麻を譲渡することとなった。また,被告人と中島との間ではその代金を10万円とすることも話し合われたが,正月で中島が自分の会社の金庫を開けられなかったため,被告人がこれを立て替え,後で中島が被告人に同額を支払うことになった。
  平成15年1月5日,被告人,中島及びKは,大阪市内で会い,飲食店内でKが中島に本件大麻を譲渡した。Kは,いったん代金の受領を断ったが,最終的には被告人から10万円を受領した。同月20日過ぎころ,中島は,被告人に,現金書留で10万円を送金した(なお,上記10万円について,中島,K及び被告人は,必ずしも本件大麻の代金というわけではないとも受け取れる趣旨の供述をしているが,本件大麻の授受に関連して上記10万円が授受されていることなど関係証拠から認められる事情を総合すれば,本件大麻の代金という趣旨が否定されるものではないというべきである。)。その後,同年2月4日までに,中島は,譲り受けた本件大麻の約5分の4を使用した。
  中島は,十四,五年前に,眼科医に緑内障の診断を受けて点眼薬をもらったことがあり,その6年後,別の眼科医に,緑内障の眼圧であるが緑内障とは別の症状がみられる,視野狭窄が起こってくるようであれば来院するようになどと言われたことがあるが,本件の前後には眼科医の診察を受けたことはなかった。

 

3 以上の事実を前提として,被告人及び弁護人の主張を検討する。
  まず,大麻の有害性及び大麻取締法の合憲性については,累次の判例により明らかである。所論の医療目的での大麻使用についても,関係証拠によれば,外国でそのような研究が始まっているというに過ぎない(それらの研究も,大麻の有害性を前提とするものである。)のであるから,医療目的での大麻使用を認めるかどうかは,大麻の有害性等をも考慮した上での立法裁量にゆだねられているというべきであって,これを認めない大麻取締法が違憲であるということはできない。
  また,上記のとおり医療目的での大麻使用は研究段階にある以上,人体への施用が正当化される場合がありうるとしても,それは,大麻が法禁物であり,一般的な医薬品としては認められていないという前提で,なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られると解される。しかし,本件では,本件譲渡の前後に中島の症状について医師による診断はなされておらず,したがって本件大麻を使用する医学的な必要性や相当性を裏付ける事情はなく,本件大麻が医学的な配慮の下に施用された形跡もないのであって,中島の本件大麻譲受けが正当化され,あるいはその処罰が適用違憲となるような事情はうかがわれない。
  そうすると,被告人及び弁護人の主張はいずれも理由がなく,採用することができない。
 (量刑事情)
 本件は,上記の経緯で,被告人が大麻の譲受けを幇助した事案である。
 本件大麻の譲受け量は約30グラムと多量であること,被告人が仲介しなければ本件譲受けはなされなかったとみられることなどを考慮すると,犯情は芳しくない。被告人は,上記のとおり,医療目的での大麻使用を合法化すべきであるとの考えを持っている者であるが,そのような見解を持つことと現行法に違反する行為に及ぶことは別論であり,その動機に酌量の余地はない。
  他方,被告人は,公判廷で事実自体は認めていること,前科がないことなど酌むべき事情が認められる。
 そこで,以上の諸事情を考慮して,主文のとおり量刑した。
(求刑懲役8月)

 

  平成16年3月17日
    大阪地方裁判所第13刑事部
           裁判官 地引 広

 


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