大麻の疼痛緩和効果と社会・経済

  病気治療にはお金がかかる。お金をかけて治療しても、元に戻っただけで得をすることはない。病人が多いということは、社会が弱体化することであり、社会的損失である。
  社会にとって最もいいのは、国民が病気にならないこと、なってしまったら効果が高く、しかもコストが安い薬が処方されることである。
  ペニシリンなどの抗生物質が開発されるまでは、治療には時間と大きな費用がかかった。しかし、抗生物質のおかげで、肺炎や細菌性感染症など多くの病気が、比較的簡単に治るようになった。それは患者だけではなく、社会全体にとっても利益となった。
  大麻は21世紀のペニシリンにたとえることができるかもしれない。さまざまな効果があり、安全性が高く、しかもどこにでも生える雑草なので、製造コストは安い。それによる社会コスト削減効果は、ペニシリン以上といえるかもしれない。
  大麻による治療は患者の治療と苦痛の緩和に効果があるのは確かだが、それが社会にとって苦痛と負担になっては困る。
  しかし大麻は新薬のように莫大な費用と時間をかけて開発する必要がなく、すでに世の中に存在する薬草である。人類は数千年前から、大麻を薬として利用してきたのである。それにもう一度目を向けるだけで、すぐにでも利用できる状態にある。
  医療に利用した場合、社会全体にとってどれほどの利益があるのか。国立がんセンターの報告にもあるように、大麻にはわかっているだけで、鎮痛、食欲増進、睡眠促進作用などがあるが、これら確認されている医療効果が、現在日本の医療費の抑制に、どのように貢献できるかを検討してみる。

 

(がん性疼痛の緩和と大麻)

 

  抗がん剤や抗がん治療法が、がんに効果があるかどうかは「延命効果があるかどうか」で測られる。現代医学は1日でも長く生きさせることを目的にしてきた。そのために先端医療機器が開発され、医学研究も進んだ。
  しかし、高齢の患者を延命目的で手術したり、回復の可能性のほとんどない患者にあまり効果の期待できない抗がん剤を投与する結果にもなった。副作用の強い治療法は、患者にとってはつらいだけということも多い。しかも、これらの治療は高額の医療費がかかることが多い。
  日本では年間30万人以上ががんで死亡するが、患者にとって恐ろしいのは、がんや死そのものより、激しい痛みである。末期がんでモルヒネが効かなく、ほかに鎮痛の方法もないという状況は、考えただけでもぞっとする。
  「痛みは死よりも恐ろしい暴君である」と、シュバイツアー博士は書いている。
  「苦しみがなければ死もそれほど恐ろしくはない」し、「痛くなければ我慢できる」というのは、多くの患者の率直な思いである。
  しかし痛みは体の異常を知らせる重要な機能であるため、重い病気ほど痛み信号は強く、その信号が不要になっても痛みのスイッチは入ったままである。

 

(難治性・慢性疼痛への利用)

 

  厚労省は2010年、『今後の慢性の痛み対策について(提言)』を発表した。
提言には日本の疼痛緩和医療がどれだけ遅れているかについて、率直に書かれている。

 

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  ・ 痛みを専門とする診療体制や、そのために必要な制度、人材育成・教育体制も十分に整備されていない。
  ・ 慢性の痛みに関する診断、治療法等の情報が科学的根拠に基いて整理されていない。
  ・ 専門医師、一般医師、医療従事者、患者において、痛みやその診療に対する共通した認識がもたれていない。
  ・ 難治性の痛みには、様々な疾患による痛みが存在するが、病態が十分に解明されていないために、診断や治療が困難である。
  ・ 有効性が乏しいとされる従来通りの鎮痛薬投与などによる治療が、今でも実施されているとの報告がある。
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  患者としては治療の優先順位は疼痛緩和なのに、その対策の遅れには驚かされる。これまでの医学では「痛みそのもので死ぬことはない。痛みは我慢できるし、我慢は日本人の美徳である」とでも考えられてきたのだろうか。
  日本人の多くが腰痛や肩や関節に痛みを感じており、腰痛の場合、80%近くが原因不明で、治療法も確立していない。高齢になるほど痛みが持病になり、病院通いが日課になる。ある製薬会社の大規模調査でも、慢性疼痛の定義に該当する人口数は、約2,315万人(保有率22.5%)となっている。
  さらにもっと激しい痛み、特に交通事故による脊髄損傷や多発性硬化症などの難病による神経性疼痛や、脳が痛みの回路を記憶してしまった場合は治療法がほとんどない。また神経そのものの損傷による疼痛には、薬や手術が効果がないことが多い。
  特に末期がんの神経因性激痛に苦しむ患者には深い同情を禁じることができない。その苦しみは患者だけではなく、家族にも大きな苦しみとなっている。
  大麻には鎮痛作用があり、特に神経侵害性疼痛にはモルヒネ以上の効果があることが確認されている。欧米の医療大麻合法国では、疼痛緩和が大麻使用順位の上位に位置づけられている。

 

(痛み:今後の対策)

 

  厚労省の「痛み対策検討会」は、「慢性の痛みが就労困難を招く等、社会的損失が大きい」ことを認めている。
今後の対策として、
  ・ 慢性の痛みの頻度、その種類、現行の対応、治療の有効性等の現状把握。
  ・ 難治性の痛みの病態解明・診断方法の開発。
  ・ 新規治療薬や治療法の開発。
をあげている。
  痛みへの恐怖、不眠、不安、疲労、孤独感は、患者を絶望的な気分にする。痛みが慢性化するに従い、精神医学的要因、心理学的要因、社会的な要因が複雑に関与して、さらに痛みを増悪させる。就労困難による社会的損失も大きい。
  しかし検討委員会が認めるように、疼痛治療は困難で、治療法の開発には膨大な費用と時間がかかることが予想される。
  検討会の委員には疼痛緩和医療(ペインクリニック)の専門家がそろっている。「慢性の痛み対策研究経費」として予算もさかれている。にもかかわらず、大麻の鎮痛効果については一言の言及もない。大麻取締法により日本では使えない薬のことを言っても仕方がないということなのかもしれないが、患者と社会のために、大麻を新規治療法に生かせるよう、検討をすすめていただきたい。 

 

(鎮痛効果 すすむ基礎研究)

 

  基礎研究(動物実験)の分野では、大麻の鎮痛効果についてかなり詳細な研究がすすんでいる。(文科省科研費データベースより)

 

○ カンナビノイドによる脊髄鎮痛の機序解明 札幌医科大学 「大麻の活性成分であるカンナビノイドの脊髄投与によって鎮痛効果が得られることが行動学的・電気生理学的に示された」

 

○ 神経障害性疼痛治療薬の開発を目指した内因性カンナビノイドの疼痛抑制機序の全貌解明 産業医科大学 「神経障害性疼痛に対する新たな鎮痛薬開発に貢献することを目的として、内因性カンナビノイドの疼痛抑制機序全貌を分子レベルで解明するための研究計画を立てた」

 

痛みと鎮痛の基礎知識

 

カンナビノイド(ウィキペディア)

 

  疼痛に苦しむ患者さんからは「医療大麻」が使えるようにして欲しいという要望がでてきている。「全国脊髄損傷後疼痛患者の会」「みんなで考えよう 医療大麻問題」

 


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