医療大麻・患者の権利と医師の倫理 (リスボン宣言とヘルシンキ宣言)

  大麻は「一度、吸ったらやめられなくなり、覚せい剤やヘロインのようなもっと強い麻薬に手をだすようになる」とよく言われる。(厚労省 ストップ大麻!大麻の使用・不正栽培は有害・犯罪です!) 
  しかし、大麻にはがんの疼痛や睡眠障害のほか、化学療法による吐気の抑制などに効果があるという報告が多数あり、WHO(世界保健機関 1997年)や最近の国立がん研究センターの報告書(2013年)にも書かれている。
  欧米先進諸外国では、ほとんどの国で、末期がんのほか、慢性疼痛、難病などに大麻を使用することが、事実上、合法化されている。
  一方、日本では医師や患者が大麻を医療目的で使用することは、「大麻取締法第4条」で例外なしに禁止されており、麻薬覚せい剤乱用防止センターのデータベースにも、大麻に医療効果があるとは書かれていない。(麻薬覚せい剤乱用防止センター)
  厚労省は、なぜ第4条が制定後60年も経過した現在も存続しているのかについて、納得のいく回答をしていない。
  末期がんや慢性疼痛、難病などで苦しむ日本の患者が、大麻を医療に利用する権利はないのだろうか。

 

(患者の権利に関するリスボン宣言)

 

  リスボン宣言は患者の権利宣言とも言われ、1981年9月-10月、ポルトガル、リスボンにおける世界医師会総会で採択され、2005年10月 第171回理事会で修正された。

 

  序文には次のように書かれている。 (日本医師会訳から抜粋引用)

 

  医師、患者およびより広い意味での社会との関係は、近年著しく変化してきた。医師は、常に自らの良心に従い、また常に患者の最善の利益のために行動すべきである。
原則
1.良質の医療を受ける権利
2.選択の自由の権利
  b.患者はいかなる治療段階においても、他の医師の意見を求める権利を有する。
3.自己決定の権利
10.尊厳に対する権利
  b.患者は、最新の医学知識に基づき苦痛を緩和される権利を有する。
  c.患者は、人間的な終末期ケアを受ける権利を有し、またできる限り尊厳を保ち、かつ安楽に死を迎えるためのあらゆる可能な助力を与えられる権利を有する。

 

  これらは世界中のすべての患者に適用されなければならない原則である。

 

  序文には次のようにも書かれている。
  医師および医療従事者、または医療組織は、この権利を認識し、擁護していくうえで共同の責任を担っている。法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる適切な手段を講じるべきである。

 

  大麻にはほかの治療薬にはない医療効果があり、安全性が高く、欧米先進諸国の多くの国で合法化されている状況では、日本の医師も、「大麻取締法第4条」をそのままにしておかず、患者の権利を守るための適切な手段をとらねばならない。

 

(医師の倫理とヘルシンキ宣言)

 

  ヘルシンキ宣言は、正式には「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」と呼ばれるが、内容は「医師の倫理宣言」と言える。1964年の世界医師会総会で採択され、2013年のブラジル総会で修正された。

 

37項
「有益性が証明されていない介入手段の診療上の使用」
  ある患者の治療において、証明された介入手段が存在しないか、もしくは既知の介入手段が無効であった場合、医師は、専門家の助言を求めた後、患者または法的な資格を有する代理人のインフォームド・コンセントの下に、未証明の介入手段を用いてもよい。ただし、その方法に、患者の生命を救ったり、健康を取り戻したり、苦痛を和らげたりする望みがあると、その医師が判断した場合に限られる。その介入手段は、その後、安全性と有効性を評価するために計画された研究の対象とされるべきである。すべての症例で、新しい情報は記録され、妥当であれば公表されなければならない。(福岡臨床研究倫理審査委員会訳

 

  リスボン宣言とヘルシンキ宣言は、一定の条件下で、「患者は未承認の医薬品(例えば大麻)による治療を受ける権利」があり、「医師は有益性がまだ証明されていなくても、効果があると判断した場合、施用が許される」ということである。
  このような基本的認識のうえに、欧米の「コンパッショネート・ユース制度(がんや難病などの患者の苦痛への同情から未承認薬を例外的に認める制度)」が成り立っていると考えられる。

 

  「カルテ開示」「インフォームド・コンセント」「セカンドオピニオン」などの概念は、日本においては比較的新しいものであるが、それは患者の権利と医師の倫理に関する意識が、欧米先進諸国に比べて、低いということかもしれない。

 

  「ほかに有効な治療法のない患者に対して、医師は患者の権利を尊重し、一定の条件下でこれまで証明されていない介入方法を用いてもよい」という世界医師会の倫理基準に準拠しつつ、日本でも欧米のコンパッショネート・ユース制度を参考にした公的制度を早急につくる必要がある。

 


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