治療現場の医師から見た医療大麻と、その法体制の問題点

(○○大学付属病院 内科医師) 

 

  私は都内大学病院で内科医をしている。臨床医の立場から医療大麻について書きたいと思う。
  大麻は日本において規制薬物(いわゆるドラッグ)として取り扱われており、大麻取締法で厳しく規制されている。法律では嗜好目的のみならず医薬品としての使用も禁止しており、現在日本では医療現場で大麻の使用は行われていない。しかし、アメリカ、ヨーロッパを中心に医療目的での大麻が使用されるようになってきている。
  私は大麻を患者に用いたことはなく伝聞や文献でしかうかがい知ることが出来ないが有効性が認められるようである。有効性がある程度確認されているものとしては、難病である多発性硬化症の鎮痛・痙縮(筋緊張が亢進した状態)の軽減、HIV感染症に対する食欲増進・体重増加がある。また、慢性疼痛で特に神経障害性疼痛に効果があると考えられていて、外傷などで神経が損傷した症例に対して臨床試験が行われており効果があったと報告されている。また癌の食欲増進に大麻製剤が効果あったとする報告もある。
  めまい・眠気・酩酊作用などの副作用があるものの重篤な毒性は少なく、また、依存性はいわゆるドラッグの中では少ない方である。大麻よりもはるかに依存性が高いモルヒネ系の麻薬が医療で問題なく使われていることを考えると、管理できないことはないだろう。
  私の注目する大麻の効果は鎮痛と食欲増進である。私は癌患者をよく診るが、癌ではどちらも問題となる。癌の痛みに対しては消炎鎮痛剤とモルヒネ系統の薬を中心に用いる。それで大体はコントロールできるが、痛みの中でも神経が障害されて起こるような神経障害性疼痛はなかなか良くしてあげられないことがある。大麻は神経障害性疼痛に対して効果が期待されている。例えば脊椎に癌が転移して骨折してしまい、脊髄損傷となってしまった場合などは、両足が痺れるように痛くなる。オキシコドンやプレガバリンなど既存の治療を行っても、痛みが完全に良くならないことがしばしば経験される。また、癌の末期では大体の人が食欲がなくなり、食の楽しみが奪われてしまう。私はそのような患者さんの症状緩和に大麻を用いてみたい。
  もちろん日本では未だかつて医療目的の大麻の使用経験はなく、最初は臨床試験という形で安全に倫理的に行う必要があると考える。しかし現在の大麻取締法では臨床試験すら禁止されている。この状況は医者と患者の治療に対する権利を侵害している。この法律が作られた当時は、大麻には薬効がない、として医薬目的の使用も禁止してしまったのだろう。しかし現在は大麻の有効成分が同定され作用の分子的機序が明らかとなり、新たな治療ターゲットとして注目されている。法改正に向けて検討が必要だと考える。

 


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