患者がみたカリフォルニア医療大麻

  2012年10月、医療大麻を考える会会員の私は、米国での医療大麻の現状を調査すべく、カリフォルニア州を訪問した。10日間の訪問では、サンフランシスコ郊外にある医療用の大麻を患者さん提供するために栽培している農場、大麻の栽培技術を教える専門学校、医療大麻の配給所(Dispensary)などを訪問 し、また医療大麻を使用する緑内障患者へのインタビューや、医療大麻使用患者を支援する非営利団体ASA (Americans for Safe Access)の定例会議やNORMLの年次総会にも参加した。

 

  私は、左胸部に慢性疼痛を抱えており、医療大麻の専門医であるJeffry医師を受診し、医療大麻使用に関する処方箋を取得した。その後は、供給所に向い、 THCやCBDなどの含有量がしっかりプロファイルされ品質管理された大麻を購入し、ペーポライザーでの吸引や大麻入りのブラウニーやチョコレートを食 し、自己治療を行った。効果は、期待を超えるものであり、ずっととれなかった胸の痛みは数分後には消え去り、夜はぐっすり眠れ、精神的にも身体的も健康的 な時間を過ごす事が出来た。日本で1日2錠から4錠服用していた鎮痛剤を一度も服用する事なく、大麻で痛みをコントロールする事が出来た。 
(日本では複数の医療機関を受診し、様々な鎮痛剤を試したが痛みはとれなかった。)

 

  ロサンゼルスで開催されたNORML(全米大麻合法化推進団体)の年次総会では、高級ホテルのホールを借り切り、3日間にわたり大麻の取り締まりと緩和に関する近況報告と今後の重要課題について討論がなされた。会議には、医療大麻を使用する患者のみならず、医師、弁護士、大学教授などの専門家、また子連れの女性も多く見られた。
  「オバマよ、約束を守れ」というスローガンもあり、医療大麻に関するオバマの変節を非難する声が聞かれた。4年前、オバマ大統領は「州法で合法化されているところでは、連邦は関与しない(州に任せる)」との通達(通称deo memoramdum)を出したが、それに反しカリフォルニア州最大のディスペンサリー(医療大麻販売所)やOrksterdam universityの閉鎖に追い込まれ、医療大麻を必要とする患者への安定供給を妨害したとして、オバマに対する失望感が高まっていた。それでもロムニ候補よりはましということで、オバマ再選にはホッとしたようだ。

 

  今回の訪問では、大麻農家、患者、医師、弁護士など多くの人たちと対話の機会を得たが、みな非常に温厚親切で正義感に溢れ、私たちの質問に対して、丁寧に答えてくれた。大麻使用者に植えつけられた凶暴、だらしない、無気力といったイメージとは、正反対の性格を持った人たちで、改めて日本で常識となっている大 麻へのイメージへの政策や報道の不公正さに残念さが増した。
  アメリカは、大麻に対して社会の認識と使用に関する管理体制では、欧州とならび先進国であるが、大麻の使用の権利と立場を確立までに、やはり容易では、な かったようである。アメリカでは、日本より11年先に、1937年に取締法(Marijuana control act)が連邦政府によって制定され、これまで多くの人が大麻の所持や使用によって懲役刑などの重い刑罰を受けた。しかしながら、大麻の有用性を信じる多 くの人々が、法律の弊害に声上げ、辛抱強く権力との交渉を行った結果、現在の地位を得ている。医療や人権の観点から、医師や弁護士など専門家が科学的、客 観的事実に基づき発言や、さらには、大麻の有用性を信じる多くの市民が勇気を持って、声を上げ戦ったここが今に繋がっている。NORMALの創立者である 弁護士のKeith氏は、私たちにこんな事を行ってくれた。「大麻使用への理解や権利を得るために、社会の中で真面目働いている一般市民が、正しい事を主 張し、訴えて行かなければなない。隠れていてはだめで、堂々と社会に向けて発信して行かなければならない。」 

 

  患者が安全に入手でき、法的問題が発生したときに支援するASAという団体の例会にも参加したが、ASAが日本語では大麻を意味することを知った参加者から拍手を受けた。取締当局は問題がややこしくなることを恐れて、患者を逮捕したがらないということだ。

 

  最近、ワシントン州(カリフォルニア州の北の州。アメリカの首都ワシントンDCではない)とコロラド州の住民投票で、大麻の完全合法化案が決定された。これはアルコールやタバコと同様に、大麻を合法化して課税するという案で、医療目的以外でも入手、所持などが合法化される。

 

  これにより課税による税収増以外に、大麻違反による検挙、裁判、投獄などの税金の無駄遣いがどこまで削減されるかが明確になるだろう。大麻は医科学的にはアルコール、タバコほどの害がないことは公知の事実なので、これら2州の行政レベルでの運営が成功するかどうか、他の州から注目されているといえるだろう。

 

  アメリカが大麻で逮捕する政策を変えようとしないのは、囚人を刑務所で低賃金で働かすためだという説を唱える人がいるが、実際はDEA(薬物取締当局)の予算の半分が大麻関連逮捕で押収物や預貯金などの私財を没収することで成り立っているからだという説があり、そちらのほうが説得力がある。

 

  2年ほど前、朝日新聞がカリフォルニア州の医療大麻販売所にはメキシコなどからの密輸でマフィアがからんでいるという報道をしたことがある。大麻の医療価値の情報より犯罪が絡んでいるのではという報道は、大麻の医療効果そのものを知らされていない日本人にとっては、日本における合法化に対する妨害行為であり、その意味で虚偽の報道を垂れ流すマスコミは二重の罪を犯していることになる。

 

  しかし、カリフォルニア州は医師の診断書があれば入手できるとはいえ、その大麻がどこから来たものかについては、曖昧な部分が残っていた。つまり販売所で販売が可能とはいえ、その販売所が大量の大麻をどこから入手するのかという点が曖昧だった。

 

  今回のワシントン・コロラド州の完全合法化は、この問題に解決を与えるものになるだろう。また、患者は金を払って医師の診断書を入手する必要がなくなるので、これまで以上に治療に利用できるようになる。日本人の患者も試してみることが容易になると思われる。

 


(写真)

 

「NORML総会」「NORML 創立者 R. Keith Stroup, J.D.との記念撮影「NORMLと提携して2015年夏までに第一回日本医療大麻シンポジウムを開催予定」

 

[画像:左から順に]

 

○ 「NORML総会 2日間にわたり患者、医師、介護者、研究者、弁護士らが熱心に討論を重ねた」 (2012.10 米国・ロサンゼルス)
○ 「NORML創立者 R. Keith Stroup, J.D.との記念撮影」 (2012.10 米国・ロサンゼルス)
  手にもっているのはDVD「第一回医療大麻の祭典 アメリカ サンフランシスコ」 (2010年 編集・制作:NPO法人 医療大麻を考える会)
○ 「NORMLと提携して2015年夏までに第一回日本医療大麻シンポジウムを開催予定」 

 


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