2015年8月と2016年3月7日、参議院荒井議員は国会において「大麻はアメリカ、欧州では研究がなされ、極めてさまざまな病気に効くということがわかってきている。しかしわが国では臨床研究すらできない。医療という観点からどのようにお考えか」という主旨の質問をした。
厚労省の回答は2回ともまったく同じで、次のようなものである。
1)(厚労省) 「大麻はわが国を含め世界の多くの国で乱用されている薬物のひとつで、国際条約や各国の法律により規制されている」
2)(厚労省) 「世界保健機関WHOにおきましては、大麻が医療用として有効であるとの見解を示しておらず、現時点では大麻を使用した場合の有害性を否定できないと考えております。このような状況下において、わが国において人に投与する医療大麻の研究・臨床試験を認める状況にはないのではないかと認識している」
この国際条約は1961年の「麻薬に関する単一条約」を指している。
しかしわが国では医療使用が1948年に禁止されており、その後の1961年の条約を禁止の根拠とするのは合理性がない。
また同条約は大麻の医療利用と研究を禁止するものではない。それはINCB(国際麻薬統制委員会)の2004年、2009年の年次報告をみてもあきらかである。
国際麻薬統制委員会(INCB)は1961年の条約を始め、薬物関連条約の遵守を監視する組織である。
INCBは2004年の年次報告(165項)で、「1990年代末以降、カナダ、ドイツ、オランダ、スイス、英国、米国など、複数の国で大麻または大麻抽出物の医療的な有効性に関する科学的調査が進められている」と報告し、2009年年次報告(厚労省翻訳)62-64項では、「医療及び科学研究目的で使用する大麻」として、「数年間にわたり、大麻または大麻抽出物の医療的な有効性に関する科学的研究が複数の国で行われてきた。国際麻薬統制委員会は、これまでの報告書に記載されているとおり、大麻及び大麻抽出物の医療的な有効性に関する健全な科学的研究が実施されることを歓迎し、その研究結果を利用できる場合は、それらを国際麻薬統制委員会、WHO及び国際社会と共有するようすべての関係する政府に求めている。国際麻薬統制委員会は、大麻の有効性に関して十分な科学的確認が行われていないにもかかわらず、政府が医療目的での大麻の使用を認可していることを懸念しているとしている。」と報告している。
これらの報告からわかるように、国際条約の遵守を監視するINCBは、1961年の単一条約が医療と科学研究目的を禁止しているとはしておらず、逆に、各国における医療研究を歓迎し、報告を求めているのである。
厚労省がこの条約を日本における医療大麻全面禁止の根拠としているのは、この点からいっても合理性がない。
また厚労省審議官は、「世界保健機関(WHO)は大麻が医療用として有効であるとの見解を示しておらず、現時点では大麻を使用した場合の有害性を否定できないと考えております」と答弁している。
しかしWHOは1997年、「大麻:健康上の観点と研究課題」で次のように報告している。
(引用始)========
「カンナビノイドの治療への適用の可能性は広範囲にわたるが、これは脳と身体の他の 部分でカンナビノイド受容体が広範に分布していることを反映している。
カンナビノイド受容体に全く異なるサブタイプが存在することによって、及び、アゴニストまたはブロッカーのいずれであっても、これらの受容体への選択的な結合を可能とする新しい化合物の今後の開発によって、選択的な治療法が多くの病気に導入されるものと思われる。
いずれ、このような化合物が内在性のカンナビノイド・システムの一つまたはその他の機能に特化して開発されるかもしれない。」
「カンナビノイドが他の治療にも使用されることから、その有効性についてさらなる基本的な薬理学的、及び、実験的な調査と臨床的な研究を行うべきことが推奨される。」
「カンナビノイドの他の治療用途は制御された研究で示されており、喘息と緑内障の治療、抗うつ剤、食欲増進役、抗けいれん薬としての用途を含んでおり、この分野の研究は続けるべきである。」
(引用終)========
(WHO/MSA/PSA/97.4 CANNABIS 厚労省翻訳 12.1)
カンナビノイドとは大麻に含まれる薬理成分である。
WHOは報告の中で「治療への適用の可能性は広範囲にわたる」「人体にはカンナビノイド受容体が広範に分布している」「今後の開発によって、治療法が多くの病気に導入されるものと思われる」との見解を示している。
厚労省はこれまで厳罰をもって医療大麻を例外なしに禁止してきたが、1961年の単一条約も、1997年のWHO報告も、2009年のINCB報告も、医療使用、臨床研究を禁止していないばかりか、研究成果を国際社会が共有することを推奨しているのである。
WHOの報告はもう20年近く前になるが、国際社会はWHOの推奨に従う形で、医療研究をすすめてきた。(1998年、米 IOMレポートなど多数)。先進諸国(G8)ではわが国だけが、医療使用と研究に道を閉ざしている。
3)(厚労省) 「大麻に含まれる成分であるテトラ・ヒドロ・カンナビノール(THC)を化学合成したものにつきましては、麻薬及び向精神薬取締法で麻薬として指定されておりまして、麻薬免許を受ければ国内で医療用途の研究は可能になっている」
大麻の効果はTHCやCBDなどの成分間の相互作用により高い効果が得られることがわかっている。単体の化学合成THCはいわゆる危険ドラッグの原料にもなっているほどで扱いが難しい。実際に化学合成されたTHC医薬品はあるが、患者は多くの成分が含まれた天然型の大麻を選択することが多い。THCやCBDなどのカンナビノイド以外にも、数多くのテレピン(芳香成分)やフラボノイドも重要で、これらがアントルージュ効果と呼ばれる複雑な作用を発揮する。THCは80種以上ともいわれるカンナビノイドのひとつにすぎず、薬理効果も限られる。THCがあれば十分だというのは単なる言い逃れにすぎない。化学合成されたものがまったく無害で副作用もないという根拠もない。