日弁連へ人権救済申し立て

  日本弁護士連合会(日弁連)には人権擁護委員会がある。
  大麻取締法が病人による大麻使用を禁止しているのは憲法違反の人権侵害なので審査していただきたいと申し立てた。


 

日弁連人権擁護委員会 殿

 

下記の通り、人権救済を申し立てます。

 

◎ 申立人 : 
  氏名 NPO法人「医療大麻を考える会」 
      申立人代表 理事長 前田 耕一
 住所 (現住所) 東京都世田谷区代田5-19-10 ドミひのき3
 連絡方法 03-6687-1170 (電話・ファックス) email : office@iryotaima.net

 

◎ 侵害者または相手方の氏名: 国

 

◎ 申立事件の概要 : 

 

  大麻の医療使用を禁止した大麻取締法第4条は、国民の幸福追求権、生存権などを保障した憲法に違反し、人権を侵害している。
  医療目的で所持・栽培などを行った患者が、裁判でその主張がまったく審理されず、却って重罰を科せられ、懲役刑に処せられるなどの人権侵害が発生している。

 

◎ 申立事件の処理等についての要望 : 

 

  大麻取締法第4条は違憲であるとの意見書を出し、国に対して法改正の勧告をしていただきたい。

 

◎ 申立人について:
  申立人である「NPO法人医療大麻を考える会」は、病気や難病で苦しむ患者さんたちを中心に1999年に発足し、2011年にNPO法人(特定非営利活動法人)として認められた。
  活動方針は大麻の医療的有用性や患者たちの置かれた立場を、マスコミや世論を通して訴え、民主的かつ合法的な手段により法の改正を求めるものである。
  本会は病人や難病患者らの団体であるが、これらの人たちに対する人権侵害を、本会理事長らが代表して、申立てるものである。

 

以下に訴えの詳細を記す。

 

(大麻取締法第4条は憲法に違反し、無効である)
  大麻取締法は第4条において
    何人も次に掲げる行為をしてはならない。  
    二  大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
    三  大麻から製造された医薬品の施用を受けること。
として、大麻の医療目的使用を例外なく禁止し、第24条の3で、違反者を懲役5年以下の実刑に処すと定めている。
  これは「すべての基本的人権の享有」を保障した憲法11条、「幸福追求権・生存権」を保障した憲法13条、25条などに違反する。(この憲法的権利には「適切な治療を受ける権利」も含まれると考えられる。)

 

(大麻に医療効果はある)
  大麻取締法第4条は立法主旨が不明なので、このような条文を制定した理由は明らかではないが、推測するに、大麻には有害性はあっても医療的有用性はないか、あるいは使用にあたって医師らが管理できないほど危険性の高いものであるという認識があるものと思われる。そうでなければ、このような法律を制定する意味がないからである。
  しかし、実際は、世界保健機構(WHO)の報告(1997年)、イギリス上院科学技術特別委員会報告書(1998年)、全米科学アカデミー医学研究所の報告(1999年)などにより、大麻には疼痛や食欲障害、睡眠障害などに対する効果があることが明らかにされ、さらに、慢性疼痛、喘息、緑内障、うつ病などに対する臨床研究も推奨されている(※1)
  我が国においても、平成22年、厚生労働省科学研究補助金を受けて、国立がんセンターが海外の臨床事例を研究したところ、大麻の成分(カンナビノイド)が末期がんの疼痛や、抗がん剤治療の副作用を緩和することが明らかになった。特にモルヒネなどの鎮痛剤に効果がない場合でも、大麻の主要成分には効果があり、モルヒネとカンナビノイドを併用することで、効果が相加・相乗的に増強されることも明らかにされた。

 

(大麻にはほかの医薬品にはない特有の医療効果がある)
  世界保健機構(WHO)は上記報告書で、大麻の成分であるカンナビノイドについて、次のように述べている。
=============== (引用)
  カンナビノイドの治療への適用の可能性は広範囲にわたるが、これは脳と身体の他の部位でカンナビノイド受容体が広範に分布していることを反映している。
  カンナビノイド受容体に全く異なるサブタイプが存在することによって、及びアゴニストまたはブロッカーのいずれであっても、これらの受容体への選択的な結合を可能とする新しい化合物の今後の開発によって、選択的な治療法が多くの病気に導入されるものと思われる。
  いずれ、このような化合物が内在性のカンナビノイド・システムの一つまたはその他の機能に特化して開発されるかもしれない。(WHO/MSA/PSA/97.4 12.1 Cannabis 厚労省翻訳)
=============== (引用終)
  要するに「大麻の主成分であるカンナビノイドにはほかの医薬品に置き換えられない特有の医療効果があり、今後の研究と開発によって、多くの病気に効果がある薬ができる可能性がある」と世界保健機構のこの文章は述べているのである。
  これらの知見は1990年代には、臨床研究などを通して、医学研究の分野では公知の事実となった。(※2)

 

(最高裁判決の誤り)
  1985年、最高裁は大麻に有害性があることをもって、大麻を禁じた大麻取締法(第4条を含む)は合憲であるとの以下のような判断をくだした。
(1)大麻禁止は大麻の有害性にもとづき、国会が法規制したものであり、国会の裁量権に属する。(最高裁第一小法廷昭和60年9月10日決定(裁判集240巻275頁、判例時報1165号183ページ)
(2)「有害性はいわゆる『立法事実』に属するから『判例事実』とは異なり、必ずしも訴訟手続における立証を要しない」(最高裁判例昭和60年(あ)代735号)
  つまり国が裁量権にもとづき制定したのであるから違憲ではない、そして有害性については国会が判断したのであるから裁判所は有害性を証明しなくてもかまわないというのである。(※3)
  この判決は民主主義の原則である三権分立を否定し、最高裁がみずから裁判権と責任を放棄するものであり違憲性が極めて高い。
  大麻の医療使用を法的に禁止し、罰則を科するかどうかは、国民の健康と幸福、生存権など基本的人権にかかわる極めて重大な問題である。
  大麻に医薬的有用性があるのはすでに公知の事実であり、大麻取締法が合理的理由なく患者の人権を侵害しているのは明らかである。立法による人権侵害に対しては、最高裁は立法の裁量論を持ち出すべきではなく、最高裁独自の調査を通して判断すべきである。
  また、立法裁量権については、立法事実(立法の前提となった事実の認識や情報)に著しい誤りがある場合には、立法そのものが違憲となると解釈されている。大麻については歴史的に漢方薬や民間薬として有効利用されてきており、大麻の医療使用禁止にあたっては有害性などの認識や情報がなかったのである(※4)から、大麻の医療使用禁止が、最高裁の言うように、立法裁量権の範囲内にあるとはいえない。
  大麻取締法第4条に対して、最高裁が国会の立法裁量権を持ち出すのは誤っていて、無効である。

 

(大麻の医薬品としての有害性と14条)
  多くの医学研究が報告するように、大麻は麻薬などのほかの依存性の強い薬物(モルヒネ、コカイン、アルコール、ニコチンなど)と比較して依存性と耐性上昇がほとんどなく、しかも実質的な致死量がない比較的安全性の高い薬物である。
  大麻だけではなく、すべての医薬品は副作用という有害性をもっており、副作用があることを前提として認識したうえで、その有用性を利用するものであり、大麻の医療利用もその例外ではない。
  大麻以外の薬物は嗜好品として合法的に使用できたり、医師が医薬品として取り扱うことが法的に許されている。
  一方で大麻にはすぐれた医薬効果があり、有害性もこれまで言われてきたほどではないにもかかわらず使用が禁止されている。これは患者の治療の選択権という観点から、平等を定めた憲法14条に違反する。(※5)
  抗がん剤や抗うつ剤など、より有害性の強い薬物が医師管理のもとで医薬品としての使用が許されているのに対して、大麻が一律に禁止されているのは合理性がなく、大麻が使用できれば治療の可能性のある患者の幸福追求権・生存権をも侵害しているのである。

 

(大麻取締法第4条は、法制定の適正手続きを定めた憲法31条に違反する)
  最高裁が大麻の有害性を認め、大麻取締法(医療使用を禁止した第4条を含む)を合憲としたのは上記の通り、1985年である。
  その後、1990年代、カンナビノイド受容体の発見により、世界保健機構、国立アメリカ科学アカデミー医学研究所、イギリス上院科学技術小委員会などが、あいついで大麻に医療効果があることを、臨床研究などで確認した。(※会報6ページ)
  それに基づき、ヨーロッパやアメリカの州で医療大麻の臨床研究や合法化がすすめられ、2013年5月現在、ヨーロッパの多くの国やアメリカ(19州)で医療大麻が合法化された。(※6)
  裁判所はこれらの新しい知見にもとづき、国に対して法の改正を求めるべきである。しかし、最高裁はこれを怠り、もはや時代遅れになった法を放置している。これは法制定の適正手続きを定めた憲法第31条に違反している。

 

  また、2004年の大阪地裁の裁判(わ 第7113号大麻取締法違反幇助事件)において、判決は次のように述べている。
============== (引用)
「上記のとおり医療目的での大麻使用は研究段階にある以上、人体への施用が正当化される場合がありうるとしても、それは、大麻が法禁物であり、一般的な医薬品としては認められていないという前提で、なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られると解される。しかし、本件では、本件譲渡の前後に症状について医師による診断はなされておらず、したがって本件大麻を使用する医学的な必要性や相当性を裏付ける事情はなく、本件大麻が医学的な配慮の下に施用された形跡もないのであって、本件大麻譲受けが正当化され、あるいはその処罰が適用違憲となるような事情はうかがわれない。」(判決文より)
============== (引用終)
  しかし日本には大麻専門の医師がいるわけではないので、判決の言う「施用を正当化するような特別の事情」というのが、どのような場合なのか患者にはわからない。患者が正当であると考えても、裁判所がそれを認めなければ懲役刑に処せられてしまうのである。これは罪と罰を法令によって事前に明らかにするという日本の民主主義の基本である「罪刑法定主義」の原則に反する。この点からも、大麻取締法第4条は、法制定の適正手続きを定めた憲法第31条に違反している。(※7)

 

(公正な裁判を受ける権利の侵害)
  裁判において、被告人は違法行為を犯した理由とそれに関する自分の意見を明らかにする権利がある。しかし、第4条の規定により、大麻の医療価値と医療目的使用が存在しないことになっている現在の裁判では、被告人は医療目的で使用したと主張することで却って罪が重くなることを恐れ、本心を語れないという制約を受けている(※8)。
  これは公正な裁判を受ける権利と、思想の自由とその表現を保障した憲法第32条、第19条などに違反する。

 

(患者を実刑に処すのは残虐な刑罰を禁止した憲法36条に違反している)
  大麻の医療効果が認められていれば病院で大麻を使用した治療を受けられるはずの患者が、大麻取締法第4条がそれを認めていないため、自己の治療薬としての大麻を違法な手段で入手せざるをえなくなり、その結果、逮捕される場合がある(※9)。患者は法の不備が理由で違法な手段を選択せざるをえなかったわけであるが、このような患者に有罪判決をくだし、刑務所に入れるのは、残虐な刑罰を禁止した憲法36条に違反する。
  また、第4条は大麻の医療効果を認めていないのであるから、ほかに治療の選択肢がない難病患者が大麻を使用した場合でも、刑法の緊急避難が適用されることはない。これも幸福権と生存件を保障した憲法に違反する。

 

(医療大麻の合法化を待ち望む患者は多い)
  本会にはがん患者や難治性疼痛で苦しむ患者会員がいる。ほかに多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、喘息、うつ病、悪性リューマチ、脊椎損傷による慢性疼痛、潰瘍性大腸炎などの患者もいる。これらの病気の治療法は限られ、多くの患者が苦しみを強いられている。
  これらの患者はインターネットなどを通して、海外の情報として、大麻に効果の可能性があることを知っている。しかし、日本では大麻を合法的に施用するどころか、医療効果について相談する医師もいない。
  そこでやむをえず、自己判断で使用するとしても、健康保険の適用もなく、常に逮捕の危険がともなう。海外で有効とされ、公的に販売されている大麻製剤すら、法的規制により、輸入することはできない。
  患者によっては海外に治療を受けに行く者もいるが、体力的・経済的に不可能な患者のほうが圧倒的に多い。
  これらの患者は基本的人権として、日本国内で医師らの医療的管理を受けながら、大麻による治療を受ける権利があるのに、それを侵害されているのである。(※10)

 

  このような優れた効果の可能性のある大麻の医療使用を禁止している大麻取締法第4条は、健康と幸福を求める国民の憲法的権利を侵害しているのは明らかである。
  日弁連は本件を調査し、人権擁護の立場から、大麻取締法第4条は違憲であるとの意見書を出し、国に対して法改正の勧告をしていただきたい。

 

添付資料「医療大麻を考える会」会報第4号
※1:NPO法人医療大麻を考える会会報4号(以後会報)6ページ参照)
※2:会報9~12ページ参照
※3:会報17~19ページ参照
※4:会報13~16ページ参照
※5:会報20~22ページ参照
※6:会報30ページ参照
※7:会報20~22ページ参照
※8:会報22ページ参照
※9:会報22ページ参照
※10:会報31ページ参照

 

NPO法人「医療大麻を考える会」 理事長 前田 耕一

 


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