大麻の多幸感は治療上の障害か、病気予防健康増進に役立つのか?

(クスリと「多幸感」)

 

  外国でもそうだが、特に日本では、医薬品にとって多幸感は望ましくない副作用と考えられている。がん治療薬で髪の毛が抜けたり、死にそうな吐気に苦しんでも仕方がないが、気分が高揚したり、幸福感を得ることは問題扱いされる。
  しかし病は気からという言葉があるように、気分は病状と強い関係がある。病気は気分を重くし、患者をうつっぽくする。しかし、暖かい言葉や励ましがあれば、病状は軽くなる。
  大麻が多幸感(ハイな気分)をもたらすことはよく知られているが、それは日本の医学では「有害」副作用だと考えられている。「大麻には医療効果はあるが、しかし多幸感をもたらすという副作用があるから禁止されている」というように。「多幸感」という言葉が「精神(薬理)作用」という言葉に置き換えられることもあるが、いずれもネガティブな意味で用いられる。逆に「良薬は口に苦し」で、つらくても我慢しなければならない。
  いったいどうしてだろう。クスリで快感を得るなんて麻薬中毒者みたいで反社会的で反倫理的だということなのだろうか。あるいはその快感が忘れられなくて、病気から立ち直ろうという気がなくなるとでも言うのだろうか。
  しかしケシからとれるアヘンやモルヒネや、コカの葉からとれるコカインは多幸感がともなうが、医療用には認められている。
  問題は多幸感ではなく、依存性だ。もしモルヒネやコカインに依存性(止めたら禁断症状がでる)がなければ、カフェインが入ったコーヒーを飲むのと変わらない。しかし実際はモルヒネは依存性があり、多幸感を求めて使用すると止められなくなるので、麻薬として管理し、病気治療以外には使用できないようになっている。
  もしマリファナに多幸感はあるが依存性がなく、しかも医薬品としての効果が高く、ほかに重い副作用がないとすれば、禁止する理由はないどころか、禁止するのは間違っている。それは恋人が見舞いにきたら多幸感があるので病室に入るのを禁止するというのと同じぐらい馬鹿げている。
  マリファナは成分が病気に効果があるという以外に、病状を幸福感という精神的側面から軽くするためにも、積極的な利用法があるということだ。マリファナには肉体的な依存性はなく、精神的依存性もほとんどなく、しかも安全性がきわめて高いというのは、今や医学的常識になっているのだから。

 

(大麻とストレス社会と予防医学)

 

  現代はストレス社会といわれ、過剰なストレスが多くの病気を引き起こしている。そのメカニズムに体内の炎症性サイトカインが関係していることがわかってきた。
  一方で幸福感は脳内の内側前頭前野機能により生み出され、炎症性サイトカインの分泌を抑制する。内因性カンナビノイドが幸福感喚起と炎症反応抑制をつなぐ内因性生理活性物質である可能性が高いということがわかってきた。つまりマリファナの多幸感には病気治療や予防の効果があることが、生理学的に解明されてきたのだ。

 

以下は科学研究費補助金研究成果報告書からの抜粋である(2013年6月6日現在)
  幸福感と身体の機能的関連の解明 - 疾患予防と健康維持の観点から

 

  現代社会はストレス社会である。平成20年度版国民生活白書によれば、日本国民の半数以上が家庭の悩み、仕事の悩みなどの社会心理的ストレスを感じていることが報告されている。また、国民のストレスの増加にともない、うつ病などの精神・身体疾患の推計患者数が年々増加している。本来人間には、ストレスとなり得る外的・内的な環境変化に対して、脳・自律神経系・内分泌系・免疫系が相互作用して、人間の体を安定した恒常的状態に保とうとする仕組みが存在する(ホメオスタシスと呼ばれる)。しかしながら、過剰なストレスはホメオスタシスを破綻させ、脳・自律神経系・内分泌系・免疫系活動の異常をもたらし、うつ病を含む様々な精神・身体疾患を誘発する。
  例えば、本来ならば体内に侵入した病原体を排除するために起こる免疫反応である発熱・発赤などの炎症反応は過剰なストレスにより慢性化し、炎症性生理活性物質(炎症性サイトカイン)が脳に作用してうつ症状を持続させることが知られている。---(中略)
  幸福感が健康を増進するメカニズムのひとつとして、炎症性サイトカインの過剰な分泌を抑制し、慢性炎症を抑えることが考えられる。(中略)
  内因性カンナビノイドは多幸感を引き起こす麻薬である大麻に含まれる化学物質と類似する生体内生理活性物質であり(中略)この内因性カンナビノイドが幸福感の源である生理活性物質であるとともに、幸福感による炎症性サイトカイン分泌抑制を媒介する生理活性物質であると予想される。(中略)
  内側前頭前野は、抹消自立神経活動・内分泌活動・免疫機能をトップダウン的に制御する脳領域であることが知られている。本研究の一連の研究結果から、幸福感は内側前頭前野機能により生み出される快感情であり、内側前頭前野の活性化は、体内の内因性カンナビノイドを介して炎症性サイトカイン分泌を抑制することで体内の慢性炎症を沈静化させ、心身の健康を増進すると考えられる。本研究は、幸福感と脳機能・自律神経機能・内分泌機能・免疫機能の機能的関連の基礎的な神経・分子メカニズムの一部を解明した。このことは、予防医学的・心身医学的に大きな社会貢献となると期待される。本研究成果を踏まえ、ストレスに対する生理学的根拠を持つ予防医学的アプローチ法を確立することが今後の課題である。(引用終)

 

(注)
(1) 内因性カンナビノイドとは人体が体内でつくるマリファナ様成分で、マリファナと同じような働きをする。カンナビノイドは体外から摂取しても同じような働きをする。
(2) ここでいうカンナビノイドにはTHCやCBDなどがすべて含まれるが、脳内で働くことから主としてTHCであると推測される。(つまりハイになるマリファナの成分で、ハイにならないCBDではない)
(3) この論文は内因性カンナビノイドに関連して書かれているが、内因性(人間が体内で自分でつくる)のものはオピオイド(モルヒネ系)でも依存性はない。ただモルヒネ系は体外から摂取した場合、依存性が生じて問題になるのだが、カンナビノイドの場合、内因性はもちろんマリファナとして体外から摂取した場合も依存性はない。つまり医療利用の可能性が非常に大きい。筆者が「予防医学的・心身医学的に大きな社会貢献となる」と、やや誇大とも思われる表現をしているのはそのためである。
(4) マリファナには多幸感があり、1970年代以後、世界中で、特に若者が嗜好目的で追い求めてきた。彼らを通して、マリファナには依存性や重篤な副作用がないことがわかってきた。人間は幸福を求め、病気を防ぎ、死を避ける生物なのだから、依存性や社会的な害がないとすれば、最低限の規制にとどめ、刑事罰ではなく行政処分にするという欧米の「非犯罪化」の動きは、きわめてまともな社会的判断だと思われる。

 

 


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