「医療大麻のコンパッショネート使用」

(日本と海外の時差 ドラッグ・ラグ問題)

 

  医薬品は人間を対象とした臨床試験が完了して、安全性と有効性が確認され、政府により承認された後、販売される。
  海外で承認された医薬品であっても、日本であらたに臨床試験をしなくてはならず、それに時間がかかり、患者から、海外では効果があるとされ、医薬品として使用されているのになぜ日本では使えないのかという声が、この10年ほどの間、深刻な社会的問題としてあがってきた。
  これはタイムラグ(時差)という言葉にかけて、ドラッグ・ラグ問題と呼ばれ、厚労省は解決策を検討してきた。
  海外で承認された医薬品だけではなく、日本で開発途中段階のものでも、条件をつけて使用できる方法がないか、また、何かあったときに誰がどのように責任をとるかとか、まだ販売されていない医薬品の価格をどのように決め、誰が払うかなどという具体的な問題について、検討が続いてきた。
 厚労省は2015年1月、22回目の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を開催し、有識者の意見を聞いた。傍聴者は300人近くいて、製薬会社らの関心の高さが感じられた。
  しかし日本の現状では、厚労省は製薬会社、薬学研究者らの協力を求めざるをえないという立場上、彼らの利害を損なわないよう、調整にかなりの時間が費やされた。
  これまでアメリカ、ドイツ、フランスなどで承認された医薬品に限られていたものが、それらの国で未承認であっても検討対象に含まれるという試案が出さるなど、検討会は一定の制度作りに向けて前進したように見える。これを一部の新聞は「未承認薬の日本版コンパッショネート・ユース制度」と報じた。しかし、欧米のコンパッショネート・ユース制度とは違いがあり、厚労省も「英語の意味が厚労省の考える治験の一形態としての制度設計にそぐわないことから、新たな名称を付ける予定」(日刊薬業)だという。

 

(ドラッグラグ解消だけでいいのか?)

 

  つまり厚労省の考え方の中心は「ドラッグラグの解消」であって、コンパッショネート(同情的、恩恵的、人道的)の観点から、未承認薬の使用を検討するというものではないのである。
  医療大麻合法化という観点からすれば、「海外でも未承認のものも検討することができる」となって一歩前進ではあるが、あくまで製薬会社の治験の枠内であり、例えば治験を行う予定がないもの(天然型大麻の利用)については検討の外に置かれてしまうのである。
  そのような状態で、仮に国会で大麻取締法4条が廃止されたとしても、国内外で未承認の大麻の医療使用のための合法的制度作りがスムーズにいくかどうか。
 大麻はまずアメリカ・カリフォルニア州でコンパッショネート・ユース制度のなかで合法化された。その後、多くの州やヨーロッパでも似たような制度の中で合法化されてきた。日本も早急にコンパッショネートユースの基本的概念を導入し、医療大麻が合法的制度の中で使用できるようすべきである。
  京都大学大学院医学研究科の寺岡 章雄氏も、医療ガバナンス学会 vol.91にCU制度の早期導入が急務と書いている。

 

(なぜ大麻は医薬品として承認されないのか)

 

 人体に大麻の有効成分であるカンナビノイドの受容体が存在し、医薬的価値があることがWHOに認められ、医学的・科学的研究が推奨されてから20年がたつ。しかも実質的な致死量がなく安全で、ほかの麻薬類のような依存性・耐性上昇がほとんどないことが医学的常識になっているにもかかわらず、なぜ、いまだに臨床試験を通して医薬品として承認されないのか。
  その理由は、
1.カンナビノイド受容体が全身に分布している
2.カンナビノイドの種類が現在同定されているだけでも60種以上と非常に多い
3.精神薬理作用がある
4.カンナビノイド間の相互作用が効果に果たす役割が大きい
などをあげることができる。

 

(日本では特別立法が必要)

 

  これらの特徴は、これまでの西洋医学的な臨床試験から医薬品としての承認へという考え方にはそぐわない。西洋医学ではある特定され抽出された成分が、(血中濃度を参照しながら)例えば頭痛という特定の疾患に効果があるかどうかを試験する。プラセボ(偽薬)効果などの精神作用は可能な限り排除される。多幸感や成分間の相互作用は、医学的見地からは好ましくない(邪魔)と想定されている。
  しかし大麻はこの(好ましくない)条件をすべて満たしているのである。しかしながら、経験的に高い医療効果があり、患者が求めるという状況があるので、西洋医学は補完的制度、つまり受け皿としてコンパッショネート・ユース制度を作り、西洋医学の枠内では救えない人たちを違法行為に追いやるのではなく、合法的に救済しようとしたものであると考えられる。
  そう考えると、大麻は少なくともあと数十年はコンパッショネート・ユース制度の枠組みのなかに置かれることになるだろう。もちろん部分的には臨床試験を通じて医薬品として認められるものもでてくるかもしれないが、部分的なものに限定されると考えられる。
  厚労省が打ち出した「ドラッグラグ解消のための、製薬会社の開発を阻害しないという条件をつけた未承認薬の使用」制度は、欧米のコンパッショネート・ユース制度とは異なり、大麻の医療使用を取り込む大きさに欠けているといわざるをえない。
  医療大麻合法化は、今回の厚労省の措置に対して法体系で上位となる特別立法が必要で、その点をふまえつつ、我々は政治家への働きかけを考えていかねばならないのである。

 


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