捏造? 京大CBD臨床試験に疑惑

  日本は科学技術立国だと言われてきた。「天然資源は乏しいが、教育水準や科学技術が高く、また世界でも例を見ない道徳心の高い国だ」と言われてきた。
  しかし、そんな印象をひっくり返すようなことが、京都大学で起こった。

 

 

(京大・大麻成分CBD臨床試験で捏造)

 

  2020年4月21日、朝日新聞デジタル版が、京都大学(霊長類研・認知心理学専門)正高信男元教授のCBD研究論文に捏造があったのではないかとして、大学当局が調査をすすめていると報道した。
  元教授はベストセラーとなった「ケータイを持ったサル」(03年、中公新書)など一般向けの著作が多く、各地の講演やテレビ出演の機会も多かった。
  研究不正の調査の対象となったのは、元教授が単独の著者として2019年11月に、スイスの科学誌「フロンティアズ・イン・サイコロジー」に発表した論文(英文論文)。内容は「CBDの反復投与で、社会不安症の10代の若者に抗不安効果を確認」というもの。
  CBDはTHCとともに大麻の主要な薬理効果をもつ成分のひとつ。THCは多幸感やリラックス感、睡眠・食欲障害緩和、鎮痛のほか多くの薬理作用が報告されているが、幻覚をもたらすという理由で、日本では麻薬および向精神薬取締法の禁止成分になっている。一方、CBDには精神活性作用がなく、WHOも規制対象とはしていない。
  記事によると、正高元教授はこのCBDの臨床試験を実施し、その結果をスイスの科学誌に掲載した。しかし、事実は英文に書かれていることとまったく違う。

 

 

 

(臨床試験は倫理委員会の承認が必要)

 

  倫理委承認が必要なのは、試験という名目で毒ガスの人体実験などが行われないようにするためである。食品であっても、今回のような医薬系の臨床試験は倫理委の承認が必要である。
  英文では京都大学の臨床試験倫理委員会の承認を得たとなっている。

 

This investigation was conducted according to the principles expressed in the Declaration of Helsinki. All experimental protocols were consistent with the Guide for Experimentation with Humans and were approved by the Institutional Ethics Committee of Kyoto University (#2018-150), the regional committee for medical and health research ethics (#2018/1783), and (この試験はヘルシンキ宣言の原則にのっとっており、京都大学の倫理委員会に承認されたものである)

 

  しかし京都大学学術情報リポジトリで承認番号(#2018-150)と(#2018/1783)を検索しても、この試験は出てこない。
 日本で臨床試験を登録している有数の団体にも、でてこない。

 

UMIN CTR
JMACCT

 

  保健医療科学院には上記4つの情報をまとめているポータルサイトがあるが、そこでも見当たらない。
  厚労省医政局研究開発振興課の「臨床研究登録の実態について」という文書にも、「登録は文部科学省助成金の申請要件でもあることから、倫理委員会に諮る前に登録する実態もある」と書かれている。

 

 

 

(査読 ‐ 学術論文を専門家が読み、その内容を査定すること。査読のない論文は評価が低い)

 

  正高元教授は英文では the Japanese Data Inspectorate for clinical trials で査読を受けたと書いてあるが、登録番号(JCT0018004564)で検索してもでてこない。というか、そもそも the Japanese Data Inspectorate for clinical trials という団体が見当たらない。

 

 

 

(文部科学省助成金)

 

  日本政府は科学研究のために、毎年、大学研究者らに助成金をだしている。ハードルは高く、研究が終わると報告書を出さねばならない。助成金は研究者にとっては経済的助成以外に、研究者として認められるという点でも意味がある。
  正高元教授の英語論文には次のように書かれている。

 

Funding(研究資金)
This research was supported by a grant-in-aid (JSPS#25285201) as well as by the Grants for Excellent Graduate Schools program from the Ministry of Education, Science, Sports, and Culture, Japanese Government. (この研究は文部科学省助成金を受けて行ったものである)。

 

  しかし、文科省助成金ホームページで登録番号(JSPS#25285201)を検索しても、この研究には助成金は拠出されていないのである。
  また、英文には Excellent Graduate Schools programからも助成金をもらっていると書いてあるが、Excellent Graduate Schools programというのが見当たらない。

 

 

 

(データの透明性)

 

  科学論文のデータは、誰でもアクセスできなければならない。そのためのシステムも進歩し、無料で簡単に検索できるようになってきた。
  京大関係者によれば、「正高元教授の研究手法が倫理委員会に申請された内容と違うことについて、霊長類研が調査の過程で、正高元教授に複数回、論文の元データを求めたが、研究ノートなどの記録が提出されなかったという。このため、霊長類研が「データを捏造(ねつぞう)した疑いがある」として、京大本部に報告した。(朝日記事)
  日本学術振興会が公開している研究者向けテキストでは、ノートの役割の一つを、「研究が公正に行われていることを示す証拠になる」と説明。「責任ある研究活動を進める上で、不可欠なツール」と指摘している。
  正高元教授は、朝日新聞の取材に倫理委の承認を得ていなかったことを認め、データについては「研究は行った。ノートというものはないが、(研究参加者に回答してもらった)書類はあり、捏造はしていない」と反論した。しかし正高元教授の反論は、サルも信用しないだろう。
  この件に関して、若手の研究者が No raw data, no science (元データ公開なしに科学はありえない)という批判をしている。

 

 

 

(海外の科学雑誌に英語論文が掲載?)

 

  福島原発事故が起こったとき、「放射能は体にいいんです。海外の学術誌に掲載された私の英語論文を読んでください」とテレビで自信たっぷりに発言する研究者がいた。一般人のなかには「学術誌に掲載」「英語論文」と言われると、そうかなと思ってしまう人もいるだろう。
  しかし、この海外の学術誌というのがくせ者である。
  「研究者倫理」というサイトには、世界には金を払えば、捏造、改ざん、盗用、とんでもない原稿でも出版できる出版社が何百とあると書かれている。ねつ造論文の原稿でも、出版すれば、出版費用を払ってもらえるので、商売になるからだという。
  そんな雑誌に掲載したら逆に研究者としての信用をなくすだけだが、海外の学術誌に英語で掲載されたということを何らかの目的(政治的・ビジネス的)に利用したい者がいるのは確か。
  スイスの科学誌「フロンティアズ・イン・サイコロジー」は持ち込まれた原稿の90%を掲載、つまり棄却率は10%程度で、あまりチェック機能がないということになる。掲載料は分野によって異なるが、10万円から30万円となっている。
  国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)声明 International Committee of Medical Journal Editorsには、「被験者のエントリー開始前に公的な臨床試験公表データベースへの登録を行っていない研究についてはLANCET等ICMJEに加盟している11の医学雑誌への掲載を認めない」としている。当然、正高元教授の論文は掲載されない。

 

 

 

(まとめ)

 

  この原稿の筆者(私)は20年以上に渡り、医療大麻合法化を唱導してきた。CBDもTHCと同じく、人類の幸福への貢献という大きな枠組みの中で、正しく理解され利用されることを願っている。
  科学、特に医療と健康に関わる分野で捏造をするということは、患者の疾患を悪化させ、場合によっては生命を奪うことにもなりかねない。
  正高元教授は20年3月に京大を定年退職したが、定年直前の時期にCBDの研究を始め、定年後のライフワークにしようとしていた。私としては、このような人物が今後もデタラメを拡散するのを黙ってみていることができなかった。
  巷間、CBDには副作用がないと言われている。しかし、「嗜好、多幸感、想像力解放、ストレス解消」などで日本に入ってきたTHC(精神活性作用がある)に対して、CBDは「お金が儲かる(グリーン・ラッシュ、大麻ビジネス)」という切り口で入ってきた。多くの人がお金儲けに目の色を変えている。私には、それがCBDの最大の有害副作用に見える。
  そもそも大麻は人類の共同財産であり、医療目的の大麻へのアクセスは最大限に保障されねばならない。それは歴史的には類人猿の昔から、また、生理学的には人体のあらゆる部分にカンナビノイド受容体があることひとつをとっても理解できるはずである。アメリカ・カリフォルニア州はコロナ対策にあたり、大麻が社会に不可欠な医薬品として、都市閉鎖中でも販売所の営業を認めた。
  後何年かはわからないが、日本でも医療大麻の研究が始まることになるだろう。しかし今回のような捏造がまかり通る限り、日本には未来はない。「天然資源は乏しいが、教育水準や科学技術が高く、また世界でも例を見ない道徳心の高い国だ」というのはただの幻覚妄想に過ぎなくなるのである。

 

 

 

(付録)

 

  正高佑志 医療大麻のお医者さん on Twitter
2019/9/21 - どうせバレるだろうからカミングアウトしておきますがイスラエルで“引きこもり”に対するCBDの有用性を報告した正高信男教授というのは私の父です。 息子の影響を受けて、サクッと症例報告しちゃうのは流石です…

 

 


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