◎ グアムで大麻の合法化 医療と嗜好
2014年、グアムは住民投票により医療大麻を合法化した。
当初の法案では対象がグアム島民となっていたため、「NPO法人 医療大麻を考える会」が知事と面談し、日本人患者であっても治療を受けられるよう法案を修正していただいた。(グアム紙PDN)
制度の実施には「ラボ(成分試験所)」「ディスペンサリー(大麻販売薬局)」などを完備しないとならないが、ラボのライセンスを申請する者がいなく、制度の実施がのびのびになっていた。
◎ 2020年4月、完全実施
2019年4月、グアムは嗜好大麻も合法化し、アメリカ本土のいくつかの州と同様の状態になった。これには医療大麻制度に必要な経費を、嗜好用の売上から捻出したいというグアム政府の思惑もあった。(嗜好大麻法 2018年10月 Bill no.302-34 COR)
現在、5人の専門家からなる大麻管理委員会(CCB:Cannabis Control Board)が設置され、来年4月までには制度が稼働する。
日本人患者が医療目的で治療を受ける場合は、日本人医師の診断書、グアム医師の推薦書が必要になる。グアム政府公認のライセンスを取得することもできる。患者はディスペンサリー(大麻販売薬局)で医療大麻を購入でき、消費税15%が免除される。

2019年9月 グアムのビーチにて
◎ グアムで治療を受けるメリット
1.日本から飛行機で3時間半と近いため、患者の体力消耗を防ぐことができる。短期間の治療を繰り返したり、医師が同伴の場合でも数日だけ滞在し、患者は治療を続けることも可能。
2.グアム住民は親日的で、日本人観光客がもっと増えることを期待している。宿泊施設も整っている。最盛時は100万人近かった日本人観光客は、景気の悪化とともに半減している。
3.気候が温暖で、冬でも暖かい。砂浜のビーチが多く、海に沈む夕日を眺めるなど自然のなかで精神的にリラックスでき、治療の相乗効果が期待できる。
◎ グアムでの臨床研究(日本人とグアム医師らとの共同研究)
大麻が病気治療に効果があることは、海外の医学界では常識である。WHOが限定的ではあるが効果を認めており、2018年にジュネーブで開催されたWHOのECDD (EXPERT COMMITTEE ON DRUG DEPENDENCY 依存性薬物専門家委員会)では、大麻にはこれまで言われてきたような有害性はないとの報告がなされている。医学専門誌には毎月のように新しい臨床研究報告が掲載されている。
一方、日本では1948年に制定された大麻取締法4条で、大麻には有害性・危険性はあっても医療効果はまったくないとされており、医師による施用や患者による受施用が例外なしに禁止されている。そのため、有用性や有害性を調べるための臨床試験すらできない。
■ 大麻から製造された医薬品の施用は何人も禁止されています。
■ 研究であっても、医薬品の開発を目的としての人への臨床試験は認められていません。(厚労省 「今、大麻が危ない!」)
また、大麻には「大麻精神病や痴呆になる」「幻覚作用がある」「凶暴化する」「依存性があってやめられなくなる」「覚醒剤にすすむ」「肺がんの原因になる」などの有害性があるという。(麻薬覚醒剤乱用防止センター)
これらの情報は米国DEA(DRUG ENFORCEMENT AGENCY 麻薬取締部)が公表してきたものと酷似しているが、DEAは市民団体の訴えで、これらの情報を事実と異なるとして、サイトから削除した。(ASA)
グアムでの臨床研究や症例研究を通して、治療効果以外に、これらの有害副作用の程度がどれほどのもので、治療上、どのような障害になるのかなどを含めた研究をすることもできる。
ある調査によれば、日本でも脳神経内科医の多くが大麻の利用に関心をもっているということである。(「脳神経内科医の医療用大麻利用に関する意識調査と情報提供の意義」)
日本人患者のほとんどは大麻使用の経験がなく、研究の対象として適している。日本とグアム研究者の臨床共同研究も可能である。
◎ 実施状況
1.医師
2019年9月末現在、医療大麻推薦書を発行する医師が30名、登録患者は300名を超えている。日本人患者を専門的に診る医師が3名いて、そのうち1名は日本語ができる。
2.ラボ(成分試験所)
医療大麻にはカンナビノイド(大麻の有効成分)の分析が欠かせないが、ラボはまだ稼働していない。しかし、日本の島津製作所のアメリカ子会社の測定器を1億円で購入契約済みで、来年3月までには稼働する。
3.ディスペンサリー(大麻販売薬局)
島の3か所に開設される。医療大麻が住民投票で合法化されてもまだ実施されないことに、島民はいらだっている。
日本人患者もグアム医師の推薦書やライセンスがあれば、ディスペンサリーで購入できる。ディスペンサリーでは嗜好用大麻も購入できるが、30グラム800~1000ドルとそれほど安くはない。
4.栽培と製品化
グアムで使用する大麻は、アメリカ本国や海外から輸入できない。すべてグアムで栽培し、島内で乾燥大麻やエキスなどの製品にする。室内栽培が義務づけられており、栽培の技術とライセンスをもった者が、何人かいる。彼らがディスペンサリーに製品を卸す。
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グアムは子供や家族連れにも安全な観光地として、今も日本人には人気がある。グアム政府は犯罪の少ない平和なイメージを大切にしてきた。
数年前、嗜好大麻の合法化案が否決されたが、それが理由である。グアム政府は今回の嗜好を含めた合法化で、グアムのイメージが悪化することを非常に恐れている。嗜好利用合法化賛成と反対はほぼ拮抗しており、観光業に悪影響を与えると規制が厳しくなることも考えられる。
最近、元女優が「グアムで大麻を経験するのはいいこと」などと煽るような発言をしている。もしグアムから日本に持ち帰る者が何人か続けば、日本政府の介入もありえるとグアムの関係者は話した。
グアム政府と島民にとって不利益をもたらす人物に指定されないよう注意すべきである。
また医療・嗜好ともに合法化されたとはいえ、商業的売買は禁止されており、確実な入手方法も明らかではない。自家栽培と自宅での使用に限定されているからである。法令遵守という観点からも、詳細についてグアム政府との情報交換が欠かせない。
グアムと大麻に関する正しい情報を普及するため、グアム政府は近く東京に事務所を開設する。
(高齢化社会と医療費削減)
大麻には治りにくい神経障害性疼痛に効果があるが、この効果だけでも、高齢社会化する日本において、次のような利用法が考えられる。
★ 高齢者医療(アルツハイマーなど)
★ 終末期医療(ホスピスでの使用)
★ 疼痛緩和医療(中枢神経傷害性疼痛など広範)
★ 在宅医療(疼痛緩和など)
★ 東洋医学との併用(鍼灸、漢方)
高騰する医療費の削減にもつながる。グアム政府は、両国の利益に沿った関心の高い医療関係者を歓迎している。
◎ いわゆる「国外犯処罰規定」について
グアムだけではなく、大麻が合法化されているカナダやカリフォルニア州で大麻を買ったり使用した場合、帰国後、逮捕される恐れがあるといわれている。
1. カナダでは、本年10月17日から、大麻(マリファナ)の所持・使用が合法化されます。
2. 一方、日本では大麻取締法において、大麻の所持・譲受(購入を含む)等については違法とされ、処罰の対象となっています。
3. この規定は日本国内のみならず、海外において行われた場合であっても適用されることがあります。
4. 在留邦人や日本人旅行客におかれましては、これら日本の法律を遵守の上、日本国外であっても大麻に手を出さないように十分注意願います。(外務省)
確かに大麻取締法第24条8(国外犯処罰規定)では、「第24条、第24条の2、第24条の4、第24の6及び前条の罪は、刑法第2条の例に従う」となっている。
刑法2条は「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する」となっていて、内乱、外患誘致(敵国軍を呼び入れる)、通貨偽造などがあげられている。
この大麻取締法24条の8は、1991年に追加されたものである。1984年の国連総会において「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」の検討が開始され、1988年、ウィーンで採択された。この条約に対応して1991年、大麻取締法を含む麻薬関連法の改正が行われた。この時点では大麻を合法化した国はなく、世界中の国は大麻禁止のために協力しなければならないというのが共通認識であった。大麻取締法24条8は、日本は国際条約の趣旨に賛同し、取締を強化するという意思を、世界に向けて表明したものである。
もし刑法2条に基づいて「日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する」としたら、大麻使用を明らかにしたオバマ元大統領や、カナダのトルドー首相らは、自国の合法・非合法にかかわらず、日本においては大麻取締法の処罰の対象になってしまうのである。(園田寿法科大学院教授「カナダで大麻を使用して帰国した日本人旅行者や留学生は大麻取締法によって処罰されるのだろうか」、「日本の旅行社が「カナダ・大麻体験ツアー」を企画したらどうなるのか」)
一方、刑法3条は「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する」として、放火、私文書偽造、詐欺、殺人、傷害、人身売買などをあげている。しかし大麻の栽培、所持、売買などは対象とはされていない。
「最近の若者は海外で気軽に大麻を経験し、日本でもやって逮捕されるようになる」と厚労省が憂慮し、刑法2条を追加したものではない。それなら刑法3条に追加すべきである。
1990年代後半には非犯罪化や合法化をすすめる国が増えてきた。「麻薬に関する単一条約(1961年)」を始め、国際条約には「医療目的は除外」とされており、これに基づいたものである。
「国際麻薬統制委員会は、これまでの報告書に記載されているとおり、大麻及び大麻抽出物の医療的な有効性に関する健全な科学的研究が実施されることを歓迎し、」となっている。(国際麻薬統制委員会 2009年年次報告 厚労省翻訳)
(そもそも医療目的使用は刑法2条にあたらない)
刑法2条が適用されない理由は他にもある。
大麻取締法第24条の3の2は、次のように定めている。
「大麻取締法第4条第一項の規定に違反して、大麻から製造された医薬品を施用し、若しくは交付し、又はその施用を受けた者は5年以下の懲役に処する」。
しかし、この項は刑法2条には含まれていない。つまり海外での医療利用には罰則がないのである。
カナダの日本大使館の
「3. この規定は日本国内のみならず、海外において行われた場合であっても適用されることがあります。」
という警告は、どのような法的根拠に基づいているのか。法律はどのような場合に適用され、どのような場合に適用されないかを明文化しないとならない。日本国民の行動を束縛することでもあるので、外務省と厚労省には説明責任がある。
厚労省は国際情勢を鑑み、時代錯誤の28条8をすみやかに削除すべきである。
筆者が執拗なまでにこの点に固執する理由は、患者はもちろん、医師や研究者が海外で安心して治療や研究ができるようにという老婆心からである。
(最後に)
1985年、最高裁は大麻取締法は合憲との判断をくだした。大麻取締法制定後70年間、医療目的使用を訴えた患者の声が、裁判官に届いた例はただの一度もない。
本来なら日本も法を改正し、合法化・非犯罪化・人道的使用制度をすすめるべきである。しかし政治家、官僚、医師らからそのような声はでてこない。せいぜい、海外の状況や学術研究の翻訳発表程度である。
今、日本が必要なのは、日本人による臨床研究と、どのように大麻取締法を改正するかという明確なビジョンである。
司法も立法も行政も、今こそ患者の利益と国益を真剣に考えるべきである。
以上